題名のない雑記帖

まだまだ道半ば。今はまだタイトルをつける時じゃない。

奇襲


1月下旬、義実家にアポなしで行くことにした。

待てど暮らせど夫からも義実家からも何の連絡もない。
このままじゃ離婚届すら出せないし、そもそもこのままでいいわけがないのに。
わたしも人生を進めるうえでいつまでも宙ぶらりんな立場でいられないし、事が進められないことに焦りと不安を感じていた。


12月に一度義実家に夫宛の手紙を出していた。
とにかく一度連絡ください、と。
どうせ義父があの馬鹿息子を匿っているんだろうと思ったからだ。

年が明けても全く何の音沙汰もない。
社会保険のことも氣になるし、もういい加減業を煮やしたわたしは、いきなり押しかける作戦に出ることにした。
事前に連絡なんかしたら夫を逃がしたりと姑息なことをされる懸念があるからだ。

それでも、この状況であの義父と対峙することを想像しただけで動悸が激しくなった。
単純に怖いし、絶対に冷静に話をしないといけない場面なのに、話の流れや相手の出方によっては感情が抑えられなくなるかもしれない。
第一、想像しただけでこの動悸だ。
怖くて怖くて仕方がなかった。

冷静と言えば山羊くんだ。アドバイスを貰おう。

かなりぼかしてわかりずらい質問だったにも関わらず、山羊くんは真摯に答えてくれた。応援もしてくれた。
もうこれをお守りにして乗り切ろう!
そう思って出掛けた。

義実家に着いてまず目についたのは玄関の門が物々しくなっていたことだった。

挨拶もそこそこに話を始めたが、案の定呆れ返ることばかりだった。

正月まで夫は義実家にいたらしいが、お父さんが怒ったから逃げちゃった、今どこにいるかもわからないと無責任なことを告げられた。
やはりここにいたのか。
手紙だって出しているのに、親子揃って本当に信じられない。
呑気に正月まで迎えていたとは、一体どんな神経をしてるんだろう。

結局夫は何千万もの借金を作っていたらしい。

ここにも借金取りが来て大変だったから門を造り変えたんだ、防犯カメラも増やした、これに幾らかかった、あれに幾らかかった…この期に及んでも、そういったお金の話ばかりだった。
苦労してきたのはわかるけど、本当にこの人が信じられるのはお金だけなんだな…と、可哀想にすら思った。

まずわたしと娘に言う事があるんじゃないのかと思ったが、この人と会うのも今日限り、とにかくこの時は夫の情報が入ったらこちらにきちんと知らせてくれるように話を持っていくことだけを優先させた。

社会保険も年末で脱退になっていた。
ちょうど今日役所から書類が届いたから送るつもりだったと渡されたが、そんな話到底信じられるわけがない。
連絡もなしに知らぬ間に脱退になっていたなんて、今月わたしか娘が病院にかかる事態が発生していたらと思うとゾッとした。
本当にわたし達のことは何も考えてないんだなと思った。
国民健康保険の加入手続きだってしなきゃならないのに…。
知らぬ間に無保険状態になっていたなんて!!!

夫を捕まえることは出来なかったが、重要な書類を手に入れられたし保険証も返せたので、それだけでも思い切って来た甲斐
があった。

それでも、話をしていくうちに思うところがあったのか、夫がこんな風になったのはお父さん達の育て方が悪かったと、最後の方についに口にしてれた。
誰に対しても絶対に頭を下げることなど有り得ないようなこの人からこの言葉を聞けたならもうこれでいいや、という氣持ちになった。

あいつも国保の手続きが必要なのは同じだ。
返事が返ってくるかはわからないが、これをわたしが持ってると知らせれば、あいつをおびき出せるかもしれない。
帰る道中でそのことに氣が付いた。

まるでゲームを進めるのに重要なアイテムを手に入れた主人公のような氣持ちになった。